主語が大きすぎると、話は届かなくなる

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仕様についてお話をうかがっているとき、時々とても印象に残る言葉があります。
それは、「みんなが使いたいと思うものです」という返答です。
もちろん、その言葉の中には、「できるだけ多くの人に役立つものにしたい」という前向きな思いがあるのだと思います。
ただ、要件を整理する場面では、その「みんな」が少しだけ曲者になります

「みんな」は広いようで、実は曖昧です

「これは誰が使いたいのですか」
「誰をターゲットにしていますか」


そう伺ったときに、「みんなです」と返ってくると、そこから先の会話が進みにくくなることがあります。
なぜなら、「みんな」という言葉は広いようでいて、実は誰のことを指しているのかがわからないからです。

学生なのか、現場で忙しい担当者なのか、はじめてその作業をする人なのか。
あるいは、日常的に使う人なのか、たまにしか使わない人なのか。

その違いが見えないままだと、本当に必要な機能も、使いやすさの基準も、優先順位も決めにくくなります。
主語が大きすぎると、話は一見まとまっているようで、実際にはぼやけてしまいます。
そして、ぼやけたまま進んだ議論は、あとになって「結局これは誰のための仕様だったのか」が見えにくくなります。

主語を絞ると、必要なものが見えてきます

逆に、主語を少し絞ると、急に話がつながり始めます。

たとえば、
「忙しい現場担当者が、短時間で迷わず使えることを大事にしたい」
「はじめて触る人でも、説明なしで流れがわかるようにしたい」


このくらいまで相手が見えてくると、必要な画面や言葉、操作の順番まで考えやすくなります。
誰のためのものかが見えると、何を削って何を残すかも判断しやすくなります。
要件定義は、機能を並べる作業ではなく、誰にとっての価値を形にする作業なのだと思います。
だからこそ、最初の段階で主語を丁寧に定めることが、その後の精度を大きく左右します。

これは発信やマーケティングでも同じです

この話は、要件定義に限ったことではないように感じています。
発信やマーケティングでも、同じことが起こります。
「みんなのための商品」
「誰にでも役立つサービス」

こうした言い方は広く見えて、実は少し弱くなることがあります。
受け取る側からすると、「結局、自分のことを言っているのだろうか」が見えにくいからです。
その点、主語がはっきりしている言葉には強さがあります。

よく知られた表現でいえば、「あなたの」という言い方には力があります。
「みんなのために」よりも、「あなたのために」のほうが、自分ごととして受け取りやすい。

それだけで、言葉の届き方は大きく変わります。

広く届けたいなら、まず誰か一人に届く形にする

広く届けたいと考えること自体は、とても自然なことです。
ただ、本当に広く届くものは、最初から曖昧に広げたものではなく、
まず誰か一人にきちんと届くように考えられたものなのかもしれません。

要件を定義するときも、発信の言葉を選ぶときも、意識したいのは「主語の大きさ」だと思います。
大きすぎる主語は、安心感があるようでいて、判断を鈍らせることがあります。
だからこそ、まずは「誰のためか」を丁寧に定めることが大切です。
誰に向けたものなのかが見えると、必要なものが見えます。
不要なものも見えてきます。
そして、その積み重ねが、伝わる仕様や、届く言葉につながっていくのだと思います。

おわりに

日々のやり取りの中でも、つい大きな主語を使いたくなる場面はあります。
そんなときほど、一度立ち止まって、「それは具体的に誰のことだろう」と考えてみる。
そのひと手間が、仕事の精度を静かに上げてくれるように感じています。
今回も、日々の実務の中で気づかせていただいた学びの一つです。
いつも多くの対話の機会をいただけることに、感謝しています。